
上手工作所は木工所からはじまり、機械を譲り受けたところから鉄工をはじめ、そして真鍮やサイン、照明を自社で製作しています。
そんな上手工作所で、新たな挑戦、錫(スズ)という金属がはじまりました。
古くから食器や装飾品に使われてきた錫。
柔らかい光沢があり、腐食しにくい金属です。

材料の状態の錫、まるで金塊のようです

中華鍋でコトコト温めます
どうして錫を使おうと思ったのか、錫サインを実際に製作しているところを直撃しました。
大沼さん アイスコーヒーを飲むときに銅のコップが出てくるときあるじゃないですか、
あれって内側にシルバーのメッキみたいなのがされてるんですよ。
あれが錫なんです。
コーヒーって酸性だから、
銅でそのまま使うと真っ黒になっちゃう。
汚くなるから、見た目がいいように錫でメッキみたいな、錫引きっていうんですけど。
料理で使うお鍋とかにもよく錫引きされてるものがありますよね。

錫引きされたカップに、アイスコーヒーの色味が映えます
錫を使った調理道具とコップ
大沼さん それの感じでクロデン(上手工作所の照明のこと)のシェードの中身に錫を塗りたかったんですよ。
外見と中身で色が違う、みたいな感じにしたくて。
ただ錫引きっていう塗る技術がとてつもなく難しくて….。
まだ諦めてはないんですけど。
そしてこの鋳造の錫が出来上がったのは、まあまあ偶然の産物で。
塗るために溶かしてて、ほったらかしにして帰って
朝来たらおもしろい形に固まってて。

4つのマスに仕切られた鉄板
液体状態、某ゲームに出てくるレアなスライムのよう
大沼さん 溶かしたら固まるのは知ってたんですけど、鉄とか真鍮とかは、融点が高いので”炉”がないとできないから
錫ならうちでも鋳造できるやん!ってなりましたね。

1マス1マスにおたまで錫を入れます

さらさらと流れていきます

料理をしているような風景です

冷えて固まるまでこのまま放置して待ちます
― 大沼さんは新しいことへの切り込み隊長のイメージがあります。
真鍮、クロデン(照明)のリニューアルと、上手工作所の新しい分野を開拓していってますよね。
大沼さん それでいったら、真鍮がはじまったときと似ている感覚ですね。
違う点は、あまりポピュラーな材料じゃなかったってことですね、錫は。
真鍮の金物や建築系のものは昔のほうがいっぱいあったんです。
真鍮がはじまったのは、それのリバイバル的な感じでした。
― 錫は?
大沼さん 錫は、ちょっと工芸的な…伝統工芸が多いですね、やっぱり。
飲食で使うような道具、調理器具とか食器とか。
それらが家具とか建築に絡んだらおもしろいなと思ってます。
― 色の括りで分けると、シルバーですよね。
うちでシルバーといえば、亜鉛やステンレスもたまに使いますよね、それとの違いはどう思いますか?
大沼さん 金属には得意・不得意があるから使い分けてますね。
何やるかっていうときに、じゃあこれはこの金属でいこうっていうのがあるわけで。
その選択肢の中に錫が入ったってわけです。
今は看板の板ですけど、錫でやる意味があって、なおかつ錫が得意なことが見つかれば
今後もなにかやっていきたいですね。
― 今回の看板の板は錫でやる意味があったということですよね、
どういうところに魅力を感じますか?
大沼さん 錫の表情、ですかね。
錫は結晶がすごく大きい金属なんで、冷えると結晶が見えるんです。
それがうちでいう、鉄の黒皮みたいなもので、本当は無くていいもの、邪魔者なんです。
伝統工芸とかでは、仕上げの段階でつるつるにするので。
それをあえて残してる、ちょっとした遊びです。
これをおもしろいと思ってくれる人に届いてほしいですね。
おもしろさ勝負なんです、錫は。
そのおもしろい部分がお客さんのお店の顔になるっていう重要な役割に選んでもらったとき、
そのお店自体がそう見えるような効果を生んだらいいなと思います。

仕上げの磨き作業

錫特有の、上品な鈍色
大沼さん 錫の表情はコントロールして作っているものじゃないから、すべて一点ものなんです。
木の木目のように、同じものはない、出会いの一枚です。
装飾ではなく、自然に出る柄だからこそおもしろいんです。
洋服を選ぶときに、プリントやカタチだけでなく、生地まで選ぶような。
そんなニッチな人に見つけてもらいたいです。

月のような模様が特徴の板面

雲のような、波のような模様の板面の右下にロゴを入れて
大沼さん 普通に生きていて、目の前で溶けて目の前で固まるもの、見たことあります?
水以外にないですよね。
水みたいなことが、金属でできる。しかも溶けないから半永久的にその形で維持できる。
その感覚がおもしろいです。
水滴がついてるような模様が出たり、固まる直前におたまですくった跡が波みたいになったり。
コントロールできないからおもしろくて、装飾じゃない自然にできる柄だからこそ、出会いの一枚になる気がします。
上手工作所で扱っているものは、特に木は一点もので、その木目や耳を見て、出会って選んでいると思います。
今回の錫も、一枚一枚違う個性のある板面をみて、出会って選んでもらいたいです。

