
『RIN カーテンレールセット(真鍮)』は、上手工作所初となる共同開発から生まれたプロダクトです。
パートナーは、内装建材や住宅設備の企画・開発・販売、リノベーション事業を手がけるtoolboxさん。
以前から、上手工作所のカーテンレール製品を取り扱っていただいていました。
見た目の美しさと使いやすさを追求し、何度も試作を重ね、意見を交わし、
細かな調整を繰り返し、費やした時間は、約10ヶ月。
ひとつのプロダクトが生まれるまでの試行錯誤と、そこに込められたものづくりの考え方を、
開発の裏側とともにご紹介します。
プロジェクトが始まったきっかけ
2025年の5月頃。
toolbox・荒川社長と開発チームの皆さんが上手工作所に来られた際、
弊社代表の徳田が「一緒に何かやりましょう!」とお声がけしたことがきっかけで、
共同開発の話が具体化していきました。
テーマは、
toolboxで扱いたいけれど、実現できていないもの × 上手工作所が得意なこと
どんな商品をつくりたいのか、互いにアイデアを持ち寄る中で、
自然と話が弾んだのが、真鍮カーテンレールとブラケットでした。
「こんな形はどうだろう」
「ここをこうしてみては」
アイデアが次々と広がり、「これは面白そうだ!」という期待感とともに、プロジェクトが動き始めました。

キックオフミーティング(上手工作所にて)

サンプルを確認しながらアイデアを出していく
それぞれの強みを持ち寄って
設計や施工の現場に関わる案件も多く手掛けられているtoolboxさん。
「実際に取り付けたらどう見えるか」「使う人がどこで迷うか」といった視点を持っています。
上手工作所は普段から、頭の中のイメージから発想して進めることが多いのですが、
toolboxさんからは実際の使用シーンを踏まえて提案していただきました。
一方で私たちの強みは、自分たちで製造していることです。
素材の特性や加工方法、実際に形にできるかどうか。
その判断を現場で素早く行うことができ、試作にもすぐに取り掛かれます。
図面やイラストだけでは見えてこないことも、実際に手を動かし、形にして確かめられる環境があります。
アイデアをすぐに形にし、実物を見ながら改良を重ねていけること。
それが上手工作所ならではの強みだと、改めて実感することができました。
対話の中で磨かれていくデザイン
最初の試作では、上手工作所で既に販売している鉄製カーテンレールと同じ考え方で、
ダブルブラケットのリングを段違いの高さにしていました。
ところが、打ち合わせを重ねる中で、
「本当に段違いにする必要があるのか」
「同じ高さの方がシンプルで分かりやすいのではないか」という意見が。
お客様がカーテンを選ぶ際にも迷いが少なくなるため、同じ高さに見直すことになりました。
ブラケットを壁面に取り付ける”座”の部分は、
当初はブラケットと一体型でしたが、取り付けにくいなどの意見が出て、最終的にはセパレートに落ち着きました。

<ダブルブラケットの初期試作>
リングは上下に分かれた状態

<ダブルブラケットの最終版>
リングはブラケットの上に

ブラケットと座はセパレートに
2回目の試作では、toolboxさんから「もっとすっきり見せたい」というご要望が。
リング部分がパイプからはみ出さない形状に変更してほしいという依頼です。
さらにカーテンレールを固定する押しネジも見えない場所へ配置し、よりノイズの少ないデザインを目指しました。

最終版ではリング・パイプの幅を揃えました

押しネジはリングの後ろ側に
若手スタッフが共同開発で感じたこと
このプロジェクトに参加した真鍮グループのスタッフ、田中さんに話を聞いてみました。

Q.参加した感想を教えてください。
A.初めての取り組みでワクワクしましたが、同時にプレッシャーも感じていました。
社内だけで進める商品開発は2〜3ヶ月ほどで形になるのですが、
このプロジェクトは製作開始から完成まで約10ヶ月と、かなり長い期間になりました。
toolboxさんが色々な試験や検証をおこなって、その結果をもとに意見を投げかけてくれ、
私たちはそれを受けて試作し、さらに改善する。
その繰り返しでした。
検証を重ね、時間をかけて完成度を高めていく進め方は、普段の上手工作所のものづくりとは違って印象的でしたね。
学ぶことが多くありました。
一方で、試作と改善のスピード感は上手工作所の強みだと感じました。
改善の要望をもらったら、大体1週間以内に改善策を考えてサンプルを製作し、お送りしていました
Q.そのスピード感が実現できるのはなぜですか?
A.「考える人」と「作る人」が同じだからですね。
一般的にはデザイナーや設計担当が図面を作り、それを製作側に引き継ぐことが多いですが、
工程が増えて形になるまでに時間がかかることもあります。
上手工作所では、「作る人が考える」ので、判断や改善がその場で素早くできます。
Q.特に難しかったところはありますか?
A.一番時間をかけたのは、本体ではなくエンドキャップでした。
プロジェクトの途中から、「せっかくならオリジナルのエンドキャップをつくろう」という話になったんです。
私たちが「エンドキャップとしても、ツマミとしても使えるものにしたい」と提案し、賛同いただきました。
が、これが予想以上に大変でした。
後半はエンドキャップの開発が中心になってましたね。

エンドキャップのアイデアスケッチ

試作サンプル色々
上手工作所では何かを作るとき、
「せっかく作るなら、一役だけでなく、二役も三役も果たせるものを」と考えます。
今回目指したのも、エンドキャップでありながらツマミとしても使える形で、
・ツマミとしての使いやすさ
・エンドキャップとして取り付けた際の美しさ
この2つを両立させる必要がありました。
ツマミとしては、キッチンのシンク下の扉などに取り付けることを想定して開発を進めました。
指を掛けやすくするため、当初は中央のくびれ部分に大きなアールを設けていたのですが、
エンドキャップとして取り付けた際の見え方があまり良くありませんでした。
そこで、アールの位置を中央から手前側に移動して、
指が壁に当たることなく自然に引っ掛かるよう調整しました。
ツマミの内部にはボルトを固定するためのM6のネジ穴加工が必要なため、
その加工部分に干渉しないギリギリのラインを狙いながら、何度も寸法を見直しています。

指で引っ掛けても

指先でつまんでも
最終的には、当初よりもアールは小さくなりましたが、
しっかりと指が掛かる最大限の形状にたどり着くことができました。
見た目だけを優先しても使いにくく、機能だけを優先すると全体の印象が崩れてしまいます。
その微妙なバランスを探り続けた結果、生まれたのがこの「つづみ」の形です。

エンドキャップ完成形

エンドキャップ装着時
Q.今回のプロダクトで一番気に入っているところはどこですか?
A.リングとブラケットの結合部分の『ザグリ』と『ロウ付け』のラインですね。
リングの曲線と、ザグリの接合ラインはぜひ見ていただきたいです。

パーツ同士を美しく正確に組み合わせるために一部分を削り込む『ザグリ』加工

『ザグリ』加工の部分とリングの間に『銀ロウ』を間に流し込んで接合する『ロウ付け』加工

接合したブラケットとリング

すっきりとした佇まい
ブラケットを真正面や真下から見たところも好きですね。
余計な要素がなくて、すっきりとした佇まいになったと思います。
Q.悩んだり、行き詰まった時はどのように乗り越えましたか?
A.真鍮リーダーの大沼さんに相談していました。
私はこうした経験がないので、プロジェクトに参加した当初から大沼さんが全面的にフォローしてくれました。
ものづくりで悩んだ時はもちろん、それ以外の部分もサポートしてもらいました。
実際に私も打ち合わせに参加していたのですが、自分の考えを伝えたあとに相手から意見や質問を受けると、
どう返せばよいのか分からなくなってしまうことがありました。
そんな時は大沼さんが間に入ってくれて、自分たちの意見だけでなく、相手の意向も踏まえながら進めてくれました。
それができるのは、やはり知識や経験の積み重ねがあってこそだと思います。

真鍮工場で相談中の大沼さんと田中さん
プロダクトに込めた想い
今回、いつもの上手工作所のものづくりとは違う進め方に、学ぶところがたくさんありました。
そして上手工作所の強みを改めて実感する日々でもありました。
完成したのは『RIN カーテンレールセット(真鍮)』。
その名は、輪を表す形状の「輪(りん)」と、「凛とした佇まい」を意味する「凛(りん)」に由来しています。
開発を担当した田中さんが、このプロダクトに込めた想いとともに名付けました。
窓は、光や風を取り込み、外の景色と暮らしをつなぐ場所。
家の中でも目に入りやすく、その空間の印象を大きく左右します。
窓の外の景色を邪魔せず、必要以上に主張しない。
それでいて、空間を美しく整え、凛とした静かな存在感を放つ。
そんな製品に仕上がりました。
朝のやわらかな光が差し込む部屋で、カーテンがゆっくり揺れる。
思い描いたのは、そんな穏やかな暮らしの風景です。
真鍮は、使い込むほどに色合いや表情が少しずつ変化していく素材でもあります。
日々の暮らしとともに深みを増しながら、その家の風景となる。
このプロダクトがそんな存在になってくれたらうれしいです。

